庭に水仙が咲いている。
僕は水仙を見ると、隣に住んでいたばあちゃんを思い出す。
ばあちゃんといっても、血のつながりのある祖母ではなく隣人だ。
気が強く、世話焼きで、声が大きく、滑舌もはっきりしていて、まさに元気な人だったと記憶している。
母はよく「あの人はいい人なんやけどおせっかいやからなあ。」とこぼしていたが、僕にとっては優しいばあちゃんだった。
僕のこともよく気にかけてくれていて、朝、出勤する僕に隣の庭から声をかけてくれたりもした。
ちょうど6年前の今頃、僕は肝臓の一部を切除する大きな手術をした。
退院したとき、ばあちゃんは僕の体を気遣い、家に招いてコーヒーを振舞ってくれた。
そして、僕を元気づけるためだろうか、ばあちゃんの庭に植わっていた水仙を切って僕にくれた。
僕は水仙の匂いが苦手だったのだけど、そのときはばあちゃんの優しさが身に染みてうれしかった。
ばあちゃんは80歳を過ぎても変わらず元気だったので、この人はいくつまで生きるんだろうと思っていた。
しかし、その2年後、ばあちゃんは病で亡くなってしまった。
詳しい病名などは聞いていないけど、ばあちゃんは亡くなる数日前まで自分で雨戸を開け閉めしていた。
ご家族の話では、本人には病名や余命のことは伝えていなかったようだ。
でもばあちゃんは最期まで凛としていた。
亡くなった直後、仏様になったばあちゃんを拝みに行った。
当たり前なんだけど、あの元気なばあちゃんは、静かに眠っていた。
たしかばあちゃんが天に召されたのは、4年前のちょうど今ぐらいだったな。
水仙が咲くこの季節は、どこか切なく温かい。