一本の線香に火をつける
ただ線香を焚くために
線香の先端が橙色に光る
さっきまでそれは、茶色い棒状の物体だったのに
炎と融合し、化学変化を起こしているようだ
そこから発する煙は、その産物なのだろう
この茶色の棒は、燃焼することで分解・気化し、大気のなかへ溶け込んでいく
そしてこの部屋を心地のいい香りで包む
役目を終えたこの棒は、生気を失い灰と化す
そしてまた大地へと帰っていく
その大地は新たな生命を育んでいく
すべては生じ滅びながら循環していく
個で見れば、永遠なものなど何もない
いかなる形あるものも、滅びを逃れることはできない
しかし、全体で見れば永遠だ
個の生命が循環を生み、循環が永遠を創造する
たった一本の線香が、そのことを教えてくれる
個のなかに、全体がある
個は全体であり、全体は個なのだ